木村伊兵衛展

丈二

2007年10月13日 17:11



私の趣味のひとつに写真がある。
下手の横好きで、逆立ちしてもアラーキー(荒木惟経)のような写真は撮れない。

その今をときめくアラーキーに多大な影響を与えた(はず)写真家、「スナップ写真の神様」木村伊兵衛の写真展を見に行った。
木村伊兵衛(1901~1974)、「ライカの神様」とも呼ばれ、名機ライカを首に下げて東京、沖縄、秋田など全国各地を撮り続けたスナップ写真の達人である。
我がアラーキーもスナップ写真の名人だが、第一人者の地位は木村に譲るだろう。

スナップ写真の極意は、被写体にカメラの存在を感じさせずに何分の一秒という決定的瞬間を捉えることだと思う。
風景写真(勿論風景は風景で奥が深い)も満足に撮れない私にスナップなど撮れるわけもないが、色々な写真家の様々な作品を見て感性を磨きたいと思っている。

 木村伊兵衛「本郷森川町」

これは昭和28年、東京は本郷森川町、交番のある街角の風景を捉えている。
画面内の全ての人物の配置がこれ以上無いほど絶妙で、彼らそれぞれが何かを語ろうとしている。ありふれた街角の一風景が様々な物語を伝えている。

さて私はこの「本郷森川町」を見てあの画家を思い出した。

バルテュスである。
ピカソと並ぶ20世紀最後の巨匠と言われ、少女のエロティシズムを描いた作品が世に知られているが、この作品を見て欲しい。
バルテュス「街路」

これまたそれぞれの登場人物がそれぞれのドラマを伝えている。



荒木経惟写真全集6「東京小説」より

勿論アラーキーも黙っていない。
これは下町商店街の一角を捉えた作品。
彼のスナップ写真は、一枚一枚を見ると意味の無い画面のように思われるが、一冊の写真集として通して見ると彼が何を表現しようとしているかが見えてくる。

アラーキーはご婦人の裸体(それも篠山紀信や秋山庄太郎のように美しくない)も多く撮っているが、彼の本領は「町」「街」。
心を町に映し出す。
私が推す彼の最高傑作は「センチメンタルな旅・冬の旅」。奥さんが不治の病と知ったときに、歩きながら撮った町、物、人・・・。彼の絶望的な気持ちが被写体から痛いほど伝わってくる。

・・・今日は木村伊兵衛の話だった。アラーキーのことはまた改めて書くことにしよう。
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