柏原選手、ゴールで仲間たちとハイタッチ
スタートの1区、早稲田の大迫の飛び出しに惑わされず堅実な走りを見せた宇野(4年)が4番手で2区の設楽啓太(2年)に襷を渡した。
啓太の力走で早くもトップに立った東洋、3区の山本(4年)は早稲田を振り切り4区の田口(1年)に継いだ。
ルーキー田口は区間賞をとる快走で5区の柏原に1分54秒のリードをプレゼントした。
私はこの時点で東洋大の優勝を確信したが、今まで柏原の力で優勝してきた他のメンバーが彼の負担を少しでも軽くしてやろうと一丸となって努力した賜物だろう。トップで中継点に現れた田口を見て柏原は本当に嬉しかったと思う。
柏原は余計な力を使うことなくただ自分との戦いに挑み、見事区間新記録で仲間の気持ちに応えた。
市川からタスキを受け取る設楽悠太
続く復路、6区は3年連続で市川(3年)。市川は2年前静岡の日本平桜マラソンに出場し、ダントツの速さで優勝した。来年は柏原の後を受け5区を走ってもらいたい選手だ。
彼も区間賞の走りで後続との差をさらに広げた。続く7区の設楽悠太(2年)も区間新記録で、追う早稲田に7分50秒もの差をつけた。
それにしても双子の設楽兄弟は揃って天才的なランナーだ。駅伝というと走ってきたランナーは精根尽き果ててその場に倒れこむことが多いが、彼らは涼しい顔をして引き揚げてきた。一見ひ弱なお坊ちゃんに見える外見だが、長距離ランナーは彼等のような体形が多い。
東洋大はさらに力を緩めず8区の大津(2年)も区間賞。早稲田との差は9分に広がった。
ゴール!
9区は柏原の親友山本(4年)。調子はイマイチだったが魂の走りで10区の佐々木(3年)に託した。佐々木は3年目にして駅伝初出場、アンカーの重責を担った。最近の選手の中では珍しく気持ちを表に出すタイプ。TV映えのするキャラだ。
何んと彼も区間賞の走りでゴールテープを切り、早稲田、駒沢を完膚なきまでに叩きのめした。
おめでとう柏原、おめでとう東洋大。キャプテンを務めた柏原はひと回りもふた回りも成長して卒業していく。富士通に就職が決まっているが、世界を、オリンピックを目指してもらいたい。全員が力をつけた東洋大は来年も優勝争いを演じるだろう。
駒沢は9区の窪田が区間賞の猛追などで意地を見せたが、10kmを28分台で走る選手を7人も揃えながら東洋に歯が立たなかった。箱根は選手全員が20kmを(1㎞3分で)走りきる力がなくては勝てないのだ。
前回僅か3秒でシード権を逃した城西大が6位と健闘したのも全員が悔しさをバネに努力した結果だろう。
明大・鎧坂と東農大・津野
箱根駅伝はいつもドラマが用意されている。
5区の最後尾をジョギングのような動きで苦しそうに走る選手がいた。東農大の津野(2年)だ。
彼は走る直前体調不良に見舞われた。しかし既に選手交代はできず過酷な山登りに挑戦した。
襷の重さゆえだ。自分が辞退したら後の6人いや1年間苦労を共にしてきた選手全員の努力が泡と消えるのだ。彼は死ぬ気で走ったと思う。彼が通過するまで待っていた応援の人々に見守られながら走り切り、ゴールしてバッタリ倒れた。これが駅伝の神髄、本質だ。
明治大も健闘した。エース鎧坂(4年)の調子が思わしくなく往路のエントリーから外れた。往路を走る選手たちは鎧坂の分まで走ろうと凄まじい気迫を見せた。鎧坂は復路のアンカーとして早稲田を抜き、無事3位でゴールした。彼に襷を継ぐ4人が負担を少しでも軽くしようと必死で走った結果だ。そう、駅伝はチーム全体がひとつにならなければ勝てないのだ。
神奈川大の襷は継った
もうひとつのドラマは10区中継点での神奈川大の襷だろう。
繰り上げスタート直前、9区を走ってきた鈴木駿(3年・静岡県出身)は10区高橋が待つ目の前で転倒した。すぐ立ち上がろうとするが足が痙攣して前へ進めない。やっとの思いで継いだ瞬間繰り上げの号砲が鳴った。TVをご覧になっていた方ならお分かりだが、スターターは神大の襷が継がるのを待ってピストルを鳴らした。2秒は待ったと思う。そのくらいの温情はあっていい。スターターも襷の重みを承知しているのだ。
復路のTV視聴率は28%!
箱根駅伝はいちどハマったら抜けられない。それだけの魅力がある。早くも来年に思いをはせる私である。